かねてより公募にかけられていた室蘭市の旧絵鞆小学校の円形校舎ですが、10月25日に市民団体「旧絵鞆小活用プロジェクト」が提案書を提出。11月6日に審査会が行われ、翌7日に室蘭市は売却せず、体育館棟は解体するとの決定を下しました。
個人的にこのプロジェクトに関わっていた者として、今回の一連の動きを振り返ってみたいと思います。まずもって、通算5000筆近い署名をお預かりし、多くの方を巻き込み、ご助言を頂いておきながら、このような結果になったこと、プロジェクトのメンバーの一人として深くお詫びいたします。
あわせて、ここから書くことは私の個人的な見解であり、「旧絵鞆小プロジェクト」ならびにその母体である「むろらん100年建造物保存活用会」「蘭歴建見会」の公式見解ではないことを先に申し上げておきます。
市が悪いわけではない
まずもって、訴えたいのはこの点です。
今回、市が提案の不採用・解体の決定を下したことについて、市の無理解を批判する向きもありますが、本件、一方的に市が悪いわけではありません。
「市」とは何でしょう。
本来は私達市民のことです。
市民の意見を集約し実行する主体として、地方自治体としての「市」がある。
私達がよく「市が」と言う場合の「市」は、市役所や市職員を指している場合が多いように感じます。でも、原則論として市職員は、市民の信託を受けた議会議員や市長の決定を受けて、「それを実行する」という使命を持った実行部隊に過ぎません。事務方とは本来そういうものです。
その原則を振り返った時に、「旧絵鞆小を保存しない」と判断したのは誰か、という話になります。
答えは、「私達室蘭市民である」ということです。
私たち「だけが」室蘭市民ではない
「そんなバカな。俺は保存を望んでいる。」
「市の決定はおかしいのではないか?」
そう思われる諸兄は、是非そのように市役所に訴えるなり、身近な市議を通じて相談して下さい。
市役所は住所氏名を明かしての市民の訴えを無下にはしません。
実際、「あんぽんたんの木」はそれで救われました。
ですが、室蘭市民は私達だけではありません。
室蘭市民にはいろんな考え方の方がいます。
「旧絵鞆小プロジェクト」が始まった当初から私が何度か指摘していたのはこの点です。旧絵鞆小の円形校舎を2棟どうしても残したい、と思っている人は全市民の何%か。そもそも旧絵鞆小の存在を知っているのは全市民の何%か。
あくまで私の肌感覚ですが、甘めに考えても
旧絵鞆小を認知している
そのうち、積極的に旧絵鞆小を2棟保存すべき → 10% (8,500人)
そのうち、税金を使ってまで保存するのは反対 → 20% (17,000人)
旧絵鞆小を認知していない(知らない) → 70% (59,500人)
ではないかと。
なので、この「知らない」7割の市民を少しでも「知っている」そして、「残すべき」と考えてもらえるように、絵鞆小の存在と、その価値を啓発するパネルを制作し、市内外で展示を繰り返すとともに、絵鞆小の活用について多くの方と一緒に考えるような催しを多く行ってきたのです。
しかし私達の力及ばず、この状況をひっくり返すには至りませんでした。
今回、市民の9割の意見を代弁した結論を出した室蘭市は、至極真っ当な、民意に沿った判断を下したと言えると思います。
どうしても私達は自分の身の回りに同じ意見の人が多いと、その意見が多数派だと思いこむ傾向がありますが、実際はどうなんだろう? と視野を広げる必要性を改めて感じた出来事でした。
それでも勝ち取ったもの
負け惜しみではありませんが、それでも私達が勝ち取ったと言えるものが1つあると考えます。それは、「教室棟は残る」ということです。
室蘭市内の廃校となった校舎で、今も活用されているものは決して多くありません。そんな中で、旧絵鞆小円形校舎2棟のうち、1棟は活用され残されているというのは、少なくとも私達が集めた市民の声に、市が応えてくれた結果だと思っています。これまでの蘭歴建見会はじめ各団体の動きが無ければ、この1棟すら残されていたか怪しい。これは一つ大きな成果であったと考えてます。
合わせて、旧絵鞆小というキーワードをきっかけに、少なくない市民のみなさんに、このまちにも次代に受け継ぐべきものがあるんだと再認識してもらえたのだとしたら、それはとても大きな成果と思うのです。
次に備えて育むべきもの
室蘭市内には、旧絵鞆小の他にも危機に瀕している歴史的遺産がたくさんあります。その存続問題というのは、いつ問題化してもおかしくない。
そうなった時に、今回と同じ轍を踏まないように、何でもない普段から、このまちの歴史的遺産、文化遺産について理解を深め、市民の認知を広げ、大切にしなければならないとの気運を醸成していくことは、何より大切だと思います。
私一人にできることは知れてますが、志を同じくする仲間たちとともに、少しずつ、歴史・文化に理解を示してくれる人を1人でも2人でも増やしていく活動を続けていきたいと考えてます。