テレワークが生み出した分断がDXを阻む

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 今般のコロナ禍によって、とくに首都圏の多くの企業が、好むと好まざるとに関わらず、テレワークなどに取り組まざるを得なくなった。
 これによって、デジタルトランスフォーメーション、いわゆるDXが劇的に進むかと期待をしていたんだけど、どうも現実はそうはならないようなので、そのあたりについて思うところを書いてみたいと思う。

3.11以来、準備が進められていたテレワーク

 2011年3月11日。東北地方を襲った未曾有の大地震と大津波は、福島第一・第二原発の事故を引き起こし、それによって一気に首都圏の電力供給が不安定になった。
 「ブラックアウト」という言葉は、2018年9月の「北海道胆振東部地震」の時に、北海道全島がブラックアウトしたことで一躍有名になったが、実は遡ること7年前の、東日本大震災の時も、ブラックアウトぎりぎりだったことを認識している人はどのくらいいるだろうか。
 震災が起きた11日は金曜日。その夜に僕自身も含めて帰宅難民になったわけだけど。12日・13日の週末は比較的穏やかに過ぎていった。(震度4-5クラスの余震は続いていたけど。)
 そして週が明けた14日(月)の午後、政府から聞いたこともないアナウンスを聞くことになった。「突発的な大規模停電のおそれがあるため、首都圏の企業はできるだけ早く業務を切り上げ、従業員を帰宅させて欲しい」というものだった。これが、今考えればブラックアウト一歩手前の状況だったんだと今にして思う。
 その後、首都圏では輪番停電が行われ、電力供給が落ち着く秋口まで続いたことは、もう9年も経ってしまい、覚えている人も少ないかもしれない。

 その頃、僕はIT関連企業に勤めてて、全国各地で講演とかをして歩く立場だったんだけど、その当時によく話した内容が、BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)だった。
 折しも、新型インフルエンザ特別措置法が2012年に制定されると、災害とパンデミックに備えて、首都圏の企業ではBCPを策定する動きが加速した。
 BCPとは、本来、「会社全体が、災害やパンデミックなどの経営危機にあたって、いかに事業を継続するのか」を定めた計画すべてを指すので、非常に大きな範囲をもつ言葉だけど、その中の具体的な手順の一つとして、ITを活用した在宅勤務やサテライトオフィスだった。

 今、新しく出てきた言葉のように思われがちな在宅勤務やテレワーク等は、実はこの頃から注目されていた言葉なのだ。

準備していたものが、いよいよ発動された今回のパンデミック

 しかし、3.11以降、通常の業務が行えなくなるほどの大災害というのはほとんど起きて来なかった。
 意識の高い一部の企業が、大きな台風や大雪の時に、従業員を自宅待機にして、テレワークさせたり、といった事例はあったと思うけど、恐らくテレワークに関しては、「できるためのしくみ」の整備は終わってても、使われてこなかったのが実情ではないかと思う。

 だが、それを使わざるを得なくなったのが、今回の新型コロナウイルスのパンデミックだ。
 今回、突然の指示だったにも関わらず、首都圏の多くの企業でスムーズに在宅勤務に移行できたのは、3.11以来の備えが功を奏したものと言っていいと思う。

 僕自身、11年間東京で勤務していたので、通勤のしんどさはわかってる。特に夏場、炎天下の中、快適な家をわざわざ出て、満員電車に乗り、出社するまでに大きな消耗を強いられてたし、これは無駄と感じていた。
 これが不要になるのだから、在宅勤務は「誰もが望む夢の勤務形態」だと思ってた。
 だから、これはきっと、この快適さを一度でも味わったら、誰もが元の勤務形態に戻りたくなくなるに違いない。だから、劇的にDXが進み、わが国の働き方が劇的に変わるに違いない、と期待していた。

 

テレワークが生み出した分断と、これから想定される揺り戻し 

 どうも、それは現実を見ないぬか喜びだったのかもしれない。
 変化が急激すぎて、一定数の労働者がテレワークにむしろストレスを感じてしまった。
 首都圏の狭い住宅事情だと、どうしても「普段いないはずの人」が家で仕事をしていると、同居者と不要な摩擦が生まれてしまう。実際、専業主婦の多数が夫の在宅勤務に懐疑的という報道も見かけた。
 また、オンラインでのコミュニケーションに慣れている20-30代の社員と、対面でのコミュニケーションを好む40代以上の管理職層の間に、目に見えぬ分断を生んでしまった。なお、この40代以上の管理職層は、会社の経営方針に対して決定権を持っている人たちである。
 会社という「居場所」を失ってしまって、根無し草のように漂い、結局会社の命令に背いて出社し処分される人も少なくないと聞く。
 まして、40代~50代は団塊ジュニア世代で母数が多い。経営者層である60-70代も団塊世代で母数が多い。それに対して20-30代はそもそも人数が少ない。
それでなくとも軽視される若年者の意見が、少数派では通るはずもない。

 残念だが、意思決定権を持つ世代が良く思っていない以上、おそらく大多数の企業ではDXは進まず、このまま元に戻るのだろうと思う。この国がDXによって、大きく働き方を変えるのは、まだまだ先のことになりそうだなぁ、と感じたこのごろでした。

 

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